「日本人の死生観」を読んで

民俗学者の五来重による宗教民俗学によって捉えられる日本人の死生観、世界観を明らかにする一冊。本書では、「菊と刀」で語られるような伝統的な貴族や武士の死生観ではなく、「鍬」と表現する「庶民の持っている思想、宗教、あるいは人生観、死生観のようなもの」を中心にし、日本人の死生観を描き出していきます。本書では、古来の思想、世界観をさまざまな文献、現存する儀礼を紐解きながら、庶民がどのような人生観、死生観を生きてきたのか、ということを明らかにしていきます。死者が怨霊となり、鎮魂により、清められ、神となる。この民俗信仰が、歴史の中でどのように変遷してきたのか、何が変わらなかったのか、ということを本書は繰り返し説明します。習俗、儀礼といった庶民の信仰。葬儀、墓といったものの捉えられ方。日本列島を歩いた著者による様々な地域に残る風葬、水葬、恐山のイタコなどの習俗を民俗学として、どう捉え、どのように考えていくのか、といった議論は奥が深く、興味深いものです。本書は現代の宗教意識が希薄な時代でこそ、我々の信仰とは何なのかを考えさせる一冊です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?