「「その他の外国文学」の翻訳者」を読んで

白水社から出版された「その他の外国文学」の翻訳者の取材をもとに構成された一冊。序文では、「その他」というキーワードの曖昧さ、その区切りが誰が分類するのかによって変わる、という事実を指摘します。また、「その他」がなぜ重要なのか、「その他」から世界を見ることの重要性をその体験性から解説します。
本書では、ヘブライ語、チベット語、ベンガル語、マヤ語、ノルウェー語、バスク語、タイ語、ポルトガル語、チェコ語の翻訳者の取材をまとめた内容から構成されます。それぞれの翻訳者が、どうやってその言語と出会ったのか、というエピソードは、十人十色です。偶然で合ったり、ある種の必然があったり、とそのエピソードも興味深い内容です。「その他」としてまとめられる言語故の学習に関する苦労や、翻訳における苦労といったエピソード。翻訳書を出版するための企画の持ち込みについての話。どのエピソードも、それぞれの世界の特有さがあり、読んでいて、それぞれの世界の生活の匂いを感じる内容になっています。
言語はそれ単体であるものではなく、社会の中に生きている、ということがわかるエピソードが翻訳やその言語の学習の苦労の中に出てきます。チベット語の文学を理解するためには、チベットに根付く仏教の理解が求められます。ただ、その理解は、現地の人も「わからない」ということを考え続ける、という終わりのない理解です。そのような体験が、本書では語られていきます。
本書は、「その他」の外国文学を通して、わたしたちの世界を開いていく、その体験の裏側を知ることができる一冊です。翻訳者の苦労や情熱を知ることができる内容で、読んでいて、言語と社会に対する視線が少し変わる一冊です。

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