「ケアってなんだろう」を読んで

精神科医の小澤さんによる「ケア」をめぐる対話集です。「技術としてのやさしさ」「やさしさに至る知」というキーワードから、認知症を主題にしながら、さまざまな問題が論じられていきます。自閉症、不登校、引きこもり、統合失調症、感情病、認知症と、広い分野に関わってきた精神科医である著者が真剣に考えてきたからこそ出てくる主張、さまざまな専門家、作家、研究者らと交わされる対話は、その広がりと深さが凄まじい。認知症の「問題行動」を、認知症を病む人から、どのような不自由から生まれるのか、その不自由にどう抗っているのか、と、眼差しからは、社会の問題が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

文化と社会、個別性と共同性、など、さまざまなキーワードから、時にラディカルな言説もありつつ、プラグマティックな視点が存在する。「人と人とは、わかりあえないという点においてのみ、わかりあえます」という言葉から、理解を超える重なり、というイメージ。人に寄り添う、人と向かい合う、「ケア」というものを考えるだけでなく、我々はどうあるのか、ということを考えさせられる内容でした。

本書の中で出てくる対話での言葉であったり、「生きがたさを少しだけ楽にすることへのお手伝い」という小澤さんの考え方を表す言葉であったり、何度も読み返したくなる、そして、自分なりにケアを考えるために戻ってくる、そんな一冊です。

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