「他者と生きる」を読んで

人類学者の磯野真穂氏による現代社会で語られるリスク、病い、死をめぐる一冊。リスクを避け、病を予防し、長生きを実現するための予防医学が、どのようにして、私たちの生活に介入してくるのか。本書は、現代社会における予防医学が、どのように私たちの経験を上書きしていくのか、というところから、私たちが何に救済を求めていくのか、といったことを丁寧に考えていきます。本書で語られるキーワードは、リスク、正しさ、自分らしさといった、自明と思われるキーワードです。著者は、これらのキーワードの自明さを差し戻します。そして、これらのキーワードを丁寧に紐解いていきます。私たちの経験を知識で上書きしていく世界の動きが出現していきます。このような世界で、私たちに救いとして提示される「自分らしさ」という物語を人間観というキーワードから説明していきます。この人間観は、統計学的人間観、個人主義的人間観、関係論的人間観という三つの人間観から、私たちの生き方、というものを描いていきます。ここには、私たちの素朴な実感を、私たちの生き方という視点から考えていきます。私という人間は周囲からは切断されておらず、社会との試行錯誤の中で変化は起き、その中で生きていく、という姿を本書は提示します。本書には、今の世界に響いている声に対する違和感を、言葉にするための考えであったり、その声を発する人々が考えなくてはならないことが示されているのだと思います。

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