「万葉集講義」を読んで

文学者の上野誠氏による万葉集の歌を紹介、解説しながら、万葉集とはどういうものなのかを明らかにする一冊。万葉集といえば、日本的なもの、日本文化というイメージの中で語られます。著者は万葉集の4つの要素を提示し、それぞれの要素について、詳細に検討をしていきます。漢字、つまり、文字が中国から伝来したことにより、歌にどのような変化が生じたのか。歌が書き留められることで、作者が生まれる。作者が生まれる、そして、歌は個人の心情を表現する道具となる。そのことにより、歌は新しい表現を与えられていく。漢字で記される事は、万葉集が東アジアの漢字文化圏の中に居場所を持つことを指摘します。次に著者は、万葉集のもつ、宮廷文学、律令官人文学としての側面を、解説します。万葉集が日本書紀を参照して、どのように歌が並べられているのか。万葉集の成立した律令国家が、宮廷の人々にどのような影響をもたらしたのか。国司や郡司たちの歌を通した交流。律令官人にどのようなことが求められていたのか。歌で表現される宮廷文化の数々、表現方法から、これらのことを解説していきます。ここでは、当時の宮廷にいた人々の生き生きとした姿が垣間見えます。律令官人の地方赴任、地方からの上京により、都と地方が交流することにより、歌を通した人々の交流、共感という万葉集姿を著者は提示します。そして、万葉集は、どのように成立していったのか、万葉集の本質とは何なのか、ということを解説します。そこでは、重ね絵というキーワードと、日本文化が強く意識されることは、どういう事態を意味しているのか、を明らかにします。万葉集という文学を冷静に描き出す本書は、万葉集を身近なものとして考えさせる一冊だと思いました。

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