「病いは物語である」を読んで

精神科医の江口重幸氏による精神科臨床の場における物語と対話的思考の論稿集。本書では、臨床の場で文化精神医学や医療人類学の方法論がどのような役割を果たすのか、といったことをテーマとしています。本書は、精神科臨床の場がどのように変容してきたのか、ということを「大きな物語の終焉」の中で描きます。そこから物語論へと向かう過程を指摘します。そして、文化精神医学や医療人類学を歴史的文脈に据えた時に見えてくるものを描写します。著者の関心である民俗学的方法と精神科臨床がどのように接続されるのか、ということを心理療法の歴史を辿りながら、見直していきます。そして、臨床民族誌が、なぜ放るようなのか、ということをジャネの議論を手がかりにして議論を展開していきます。ここでは、著者の事例などの紹介から、いかに語られ、いかに聞き取るのか、ということが論じられます。最後に、精神医学の文化批評という領域を論じます。ここでは。製薬企業と医療者の利益相反などの議論が整理されます。文化精神医学は、そこでどのように機能するのか、ということも論じられます。最後に、著者の勤務先の病院に掲載されたエッセイが載せられています。精神科臨床に携われる1人として思うことなどが率直に書かれているエッセイであり、このエッセイも著者の人柄のよくわかる良い内容でした。本書は、医療というだけでなく、現代を生きる人間にとって、道標となるような一冊ではないかと思いました。

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