「野の医者は笑う」を読んで

「心の治療とは何のか?」という問いから、臨床心理士の著者が、沖縄の「野の医者」のもとに行き、実際に治療を受け、そして、彼らの話を聴いていく、という内容です。野の医者と触れ合いながら、野の医者の提供する治療と、科学的である臨床心理学の違いは何なのか、同じところはどこなのか、ということを問い直す、という非常に面白い内容です。

ユタ、オーラソーマ、スピリチュアル、占い、マブイセラピーと、様々な野の医者の治療を受けながら、そして、彼らのミラクル・ストーリーを聴きながら、考察は進んでいきます。野の医者の治療は、荒唐無稽であるにも関わらず、なぜ、癒すことができるのか。それは、医療人類学者クラインマンの「説明モデル」だと、野の医者の語りすぎる治療から考えます。治療者と病者が「なぜ病気が起きて、どうすれば癒されるのか」という物語を共有して、課題に取り組むことで、治癒が起きる。つまり、治療者の提示する「生き方」に、病者を巻き込むことで、治癒が発生するのだと、著者は考えます。また、野の医者は、自らが傷つき、自分が癒された経験から、野の医者となった「傷ついた医療者」であり、治療をすることで、自らが癒される、という構造になっていることに気がつきます。

野の医者をめぐる話は、マスターセラピストという野の医者のセミナーやスクールを追うことになります。そして、野の医者の治療と臨床心理学が、それほど遠い場所にはいないということが分かっていきます。治療というものについての考え方、生き方についての考え方、著者の結論は、とても興味深かったです。

野の医者の笑い声が聞こえてくるような、軽妙な、そして、生き生きとした文章は、読んでいて、とても気持ち良かったです。

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