「病んだ言葉 癒やす言葉 生きる言葉」を読んで

英文学者の阿部公彦氏による「言葉の生理」を取り上げた一冊。言葉の伝わらなさ、言葉が伝わらない「あたりまえ」から本書は始まります。言葉を使うことに対する格闘、そこにある生理を、本書ではさまざまなテーマから描き出していきます。「言葉を甘く見てはいけない」というテーマにまとめられた話は、言葉を取り巻く現在の状況。当たり前に語られる「実用性」「論理性」などの言葉を、著者は、それは何なのか、と深く問いかけてきます。そこには、言葉を使って世界と付き合っていく上でのさまざまな道具が配置されています。そこから、英語にまつわるさまざまなテーマへと向かっていきます。英語教育の幻想を、信仰という面から、何が問題なのかということを提示していきます。言語の運動感覚という、言語の豊かな姿を著者は示します。そこから、個々の作品の分析へ進んでいきます。森鴎外、夏目漱石、太宰治、西脇順三郎と、作家の語り、作家は何をしようとしたのか。それらを作家の文章、作家について書かれた文章から考えていきます。本書は、そこから、言葉で伝えること、言葉を受け継ぐこと、伝わらないことを伝えていくことを語っていきます。もがきながらも語り続けること。語るということは、語る人物の生理を通して表出されます。それをどう聴くのか、どう読むのか。本書が示す言葉の姿の生々しさは、現代において、言葉の豊かさを考えさせるものでした。

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