「ダメになる人類学」を読んで

本書は、ダメの専門家である文化人類学者から皆さんへと投げかける、ダメへのいざないである。

「おわりに」より

監修に東京学芸大学の吉野先生、編集に岩野氏、田所氏、稲澤氏、小林氏、著者に人類学者、社会学者など、多数の人による人類学の本です。タイトルの「ダメになる」の説明から、膝を打つ内容が繰り広げられます。

ダメなことはかなり状況依存的で、場合によってはタメになることかもしれない。

ダメとされる行為とその背景には、その社会が大切にしているもの、その社会の本質がある。ダメを拾い上げることで、社会の大切にしているもの、社会の本質を明らかにすることができる。人類学者の、このような視点をさして「ダメの専門家」と本書では、著者たちの自己紹介をしています。この「はじめに」の文章は、世界の捉え方って、そういう視点は確かにあるな、と思わせます。

全部で10のテーマから構成される本書は、各内容が現代の日本を生きる我々の疑問を具体的な事例(フィールドで著者たちが体験してきた内容)とともに描き出しています。これは、読む人によって、どの話が印象に残るのか、というのは分かれるな、と思いました。また、その時々の考えでも、印象が変わりそうでした。つまり、何回も読み返すことで、印象がいつも違う、読んだ後の「なるほどなぁ」という感覚の色が異なる、という面白い本だな、と感じました。

個人的には「コトバと世界観」と題された第4部は、言葉が表す、その社会を構成する世界の面白さがよく見えて面白かったです。言葉とカテゴリーの問題、識字文化と非識字文化のダイナミクス。この意識されない世界観が垣間見える瞬間は、非常に心躍る、というか、面白い、と思いました。

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