「笑いの哲学」を読んで

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日本女子大学教授の木村氏による「笑い」の可能性を探る一冊です。本書では、三つの「笑い」を通して、現代日本の社会と「笑い」というものを見ていきます。優越の笑い、不一致の笑い、ユーモアの笑いと、「笑い」を段階的に見ていきながら、「笑い」と私たちの社会をめぐる諸問題を、西洋哲学での「笑い」に関する知見と、実際の「笑い」の場(漫才、コントなど)の考察から見ていきます。「笑いとは平穏な日常の破裂である」という定義から、優越の笑い、そして、それが変容する「安全な空間」という場の考察。優越の笑いにおける「笑い」の裏にある道徳文化、笑われないことの恐怖、といった内容。何事かの掟に支配される、という恐怖。この「笑い」という危ういものが示されます。そして、その笑いの中には、「不一致」が見られる。それは必ずしも、優越ではない。故に、「不一致の笑い」が存在する。不一致の笑いの中に見えてくるものはなんなのか。それは、「機知と隠喩」である、と著者は指摘します。そして、この笑いの中で、人は不合理なものと出会います。これは、常識と常識ではないものの出会いでもあります。ここでは、「笑う者」と「笑わせる者」のすれ違いが強調されます。ここは、「ユーモアの笑い」とも繋がる部分となっていきます。ユーモアとは何なのか。そのことを、お笑い、芸術、精神医療と、様々な場から考えていきます。そして、現代日本において、ユーモアの下地が、どのように生まれ得るのか。「絶望」しても良いという「安心」というキーワードから、ユーモアというものは、どういう性質があるのかを述べていきます。ユーモアの笑いを考えていくことで、日本社会の閉塞性、掟に支配されている姿を明らかにします。このことから、本書は、ユーモアの空間が日本に開かれるにはどうすれば良いか、という宿題を示していきます。

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