「科学化する仏教」を読んで

宗教学、近代仏教を専門とする碧海氏による、近現代における仏教と科学の接近と反目の歴史を追った一冊です。近代科学が日本に本格的に普及する明治期から現代のマインドフルネスまでに及ぶ、科学と仏教の関係を、井上円了、元良勇次郎などのキーパーソンが、仏教からどのように科学と関わったのか、科学からどのように仏教と関わったのか、という、それぞれの時代を追いながら、科学と仏教が交差する点、そして、その交差からいかに離れていったのか、というダイナミクスを描き出していきます。心理学、催眠術、超能力、と、仏教と科学を結びつけようとする流れが、どのように科学から生まれてきたのか、どのように仏教は反応したのか。この動きの中から、時代の諸相というものが見えてくるのではないかと思います。科学と仏教がいかに結びつき得るのか。仏教修行という手段が達成する目的ではなく、副次的ともいえる効果を、抽出していく。その効果を解き明かす科学からの仏教への接近。その接近に対する仏教からの反発。このような歴史の流れを知ることは、盲目的にマインドフルネスを礼賛する現代人は知っておく内容だと思いました。

科学は仏教的修行が人の心身に及ぼす影響を明らかにしてきました。しかし、その中では、仏教修行が持つ目的、向かう先を引き離していく。そんな危険が潜んでいるのではないしょうか。本書の終章に書かれた鈴木大拙の晩年の逸話。「当たり前」の事実を前にして、「人」がどう生きて死ぬのか、そのことを一度立ち止まって考えることを、仏教は教えているのではないかと思いました。

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