「医師が死を語るとき」を読んで

脳神経外科医ヘンリー・マーシュによる自伝的な一冊です。国民保健サービスによって、変わった医療現場に辟易し、退職をするまでの話、そして、退職後に旧知の外科医の元での医療現場の現実、貧困の影響など、様々なもののなかに、著者は身を置くことになります。「自省」というサブタイトルからも分かるように、本書の中では、様々な場面で著者の眼前の現実と、かつての体験とが交差し、その中で、著者が何を考えていたのか、その考えがどのように変わったのか、といったことが繰り返し述べられます。患者の死、死に向かう患者に対し、どのように振舞うのか。そのことと、自身に近づいている死。様々な場面を通して、著者は、医療について、「よき死」についてを考えていきます。著者が長年医療に携わったイギリス、そして、旧知の外科医とともに医療を行なったネパール、ウクライナでの体験を振り返ります。正直であること、患者との距離を保つこと、その重要性を繰り返し説きます。なぜ、それが重要と考えるに至ったのか。本書の中で、そのことを深く洞察します。本書は、ただ、脳外科医がそのキャリアの終盤を振り返った一冊ではなく、私たちが死に向かうその場で、社会はどうあるべきなのか。私たちは、どうあるべきなのか。そのことを考えさせられる一冊です。

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