「ヘルシンキ 生活の練習」を読んで

ヘルシンキ大学文学部文化学科講師の朴沙羅氏によるヘルシンキに子供とともに移住をした記録と、ヘルシンキで考えたことをまとめた一冊。本書は社会学者である著者ならではの視点と、ヘルシンキの人々の言葉が出会ったときに、著者はどのように考え、そこから意見を整理していったのか、という記録でもあります。本書では、ヘルシンキへの移住から、ヘルシンキでの子供たちとの生活、保育園での日常、日本とフィンランドの日常が描かれています。フィンランドの保育園、フィンランドでの子育てを通して行われるフィンランドの人々とのやりとり、フィンランドの人々の言葉は、著者だけではなく、読者にも考えるところが多くあります。その言葉の数々は、本書の帯にもなっています。そこには、フィンランドの人々の考え方が強く反映されています。フィンランドと日本との差異により、それぞれのあり方というのが見えてくる部分にもなっています。ただ差異がある、というだけで、優劣としての比較になっていません。著者は、その差異を見ながら、どのような社会を目指していきたいのか、ということを、自身の立場から述べます。著者は、相手の立場から見た場合に、状況がどのように見えるのか、自分の立場から見たら、どのように見えるのか。見方をさまざまに提示しながら、フィンランドでの日常で感じたことを示しています。本書は、個人から社会へと開かれる、社会に対する考え方の練習、日常の生活の練習のあり方を示す一冊です。

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