「ただしい暮らし、なんてなかった。」を読んで

エッセイストの大平一枝さんがこれまでの生活を振り返って、「かつて」と「いま」で変わっていった価値観を、さまざまなエピソードとともに描いた一冊です。本書は、「十年前には想像していなかったいまの自分」という冒頭から、変わるということを振り返ります。人は変わり続ける、ということを、自分の暮らしの中での失敗や振り返りから指摘します。著者の生活のあれこれのエピソード、過去から今に至るまでの考えの移り変わり。豊富なエピソードを軽やかに、そして、鮮やかに描き出す著者の文章は、読んでいて、なるほど、そういうのは分かるな、と共感する点が多くあります。本書では、これまで当たり前のように「そうあるべき」として提示されてきた価値観に対し、いやいや、私はこういうことがあって、こう思うんだよ、ということを著者は優しく言います。人間というのは多面的である、ということを時間の流れの中で、うつろいゆく姿として、著者は描き出します。それは著者自身のことであったり、著者の周囲の人であったり、分かり合う、ということのありようを描き出します。本書は、衣食住、という暮らしについて、こういう生き方もあるよな、と思ったり、人付き合いにはこういうやり方もあるんだよ、ということをさまざまなエピソードから示します。本書は、生活の中で生きづらさのような物を感じしている人の肩の力を抜かせるような、そんな柔らかさのある一冊だと思いました。

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