「交わらないリズム」を読んで

現象学者の村上靖彦氏による医療・福祉の現場でのインタビューの内容を実例に人間の生を、そして、世界を解き明かそうとする一冊です。本書はタイトルと副題にあるように、キーワードとして「リズム」「現象学」が繰り返し登場します。リズムとは何か、リズムを重層的に問い続けます。人の生は他者との関わりがある以上、それは単数のリズムではなく、複数のリズムが重なるポリリズムである、と著者は指摘します。リズムをキーワードとして、人間の生活、対人関係、居場所といったものを解説します。リズムがどのようにポリリズムとして現れてくるのか、ということを著者はいくつかの実例や文献から描き出していきます。この著者の思考過程もまた、複数のリズムが重なり合うポリリズムでもあります。リズムというキーワードからメロディー、歌という観点からも人間を考えます。メロディーが人と共振すること、そして、それがポリリズムを可能とする要素になる、ということを著者は説明します。歌の出現が存在領域を開く、という過程を丁寧に描き出していきます。これらの人の生を、リズムとメロディーというキーワードから描き出す中で現象学と接続されていきます。現象学で接続されることで、リズムと世界が開かれる流れが鮮やかに浮かび上がってきます。本書が描き出すポリリズムというキーワードは、人間、そして、世界との関わりというものを考えさせるものだと感じました。

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