「タコの心身問題」を読んで

哲学者であり、ダイバーでもあるピーター・ゴドフリー=スミスによる「頭足類と私たちの心の本性を合わせ鏡で覗き込む」一冊です。単細胞生物から、多細胞生物、そして、頭足類への進化の過程を辿りながら、私たちと頭足類の類似と相違が浮かび上がってきます。その中で、神経系が、どのように発達していったのか、感覚と行動のループがどのように出来上がったと考えられるのか、意識とはどのように出現していったのか、といった内容を解き明かそうと試みるのが本書の内容です。頭足類と脊椎動物が分岐したエディアカラ紀からカンブリア紀、その時代での生物のあり様。「進化のフィードバック」という「食う、食われる」の関係の成立。ダイナミックな論の展開は、非常に読み応えがあります。

「タコになったらどんな気分か」という問題から、タコの身体はどのようになっているのか、それが主観的経験、主体的に感じる能力、意識の出現にどのようにつながっていくのか、ということを述べていきます。進化に対して影響を与えてきた「感覚−行動」のループを示し、どのように主観的経験が出てきたのか、ということを様々な論を引き出しつつ、著者の考えを明確に描き出していきます。そして、頭足類に見られる身体の色の変化や発色を、コミュニケーションを送り手と受け手の関係から解き明かそうと試みます。ここは、「内なる声」と心、4匹といったものが明らかにされていきます。ここでも重要になってくるのは、ループ、フィードバックという関係性です。

タコという我々にとって、身近でありながら、遠縁の生物について考えることで、我々のことを解き明かすことができる、という独特な本でした。

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