「心はどこへ消えた?」を読んで

臨床心理士の東畑氏によるコロナ禍の心に関する「大きすぎる物語」から、クライエント個人の「小さすぎる物語」へと、心を探していくエッセイ。2020年から2021年とエッセイを描き続けていく中で、著者はあることに気がつきます。

おかしい。心が見つからない。心はどこへ消えた?

著者は、心を探し、そして、「小さすぎる物語」のなかに、心を再発見します。著者が、どのように思い、考えていったのか、が本書で語られていきます。著者のエピソードを中心に、コロナ禍での心にまつわるエピソードから時が進むにつれて、心がどこに消えたのか、を問われていきます。「午前4時の言葉たち」で見られる心が見失われる世界と、心が現れる時の話。ここから語られていく、クライエントの個別の複雑なエピソードの中に現れる心の話。ここで語られる話は、現実のコロナ禍という情勢の中では、個人的すぎる話です。ですが、そのエピソードの中で語られる心の話は、とても大切な話です。これらのエピソードは、他者の話ですが、そこに共感であったり、反応をして、何か自分の話を語りたくなる、という繋がりを生じさせるものです。この他者と自分が出会うときに、心に気が付く。著者の心と読者の心が出会い、また、著者を通して、クライエントの心と読者の心が交流が繰り広げられる、そんな一冊です。

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