「協力と裏切りの生命進化史」を読んで

進化生物学者の市橋さんによる、生命の進化を「協力」と「裏切り」という視点から見ていく、という内容です。生命の進化史を辿ろうと思うと、「生命」とは何か、という問題が付きまといます。そこで、本書は、まず、生命と非生命という対比から生命を捉えようとします。何が生命と非生命を分けるのか。その特徴を検討しながら、「進化する能力」が生命にはあり、生命は徐々に複雑になっていく、という姿を描き出します。生命の複雑になっていく進化の歴史の中で、どのような協力関係が存在しているのか、を眺めていきます。分子が協力して作り上げられた細胞。細胞内共生として、細菌を取り込んだ真核細胞。細胞同士が協力する多細胞生物。血縁関係にある生物同士の協力。そして、血縁関係にない生物同士の協力。これらの協力の歴史を、実例とともに眺めていきます。この協力関係は、どのように維持されるのか。そのキーワードとなるのが「裏切り」です。人の社会における「裏切り者」、アリの社会における働かない働きアリ、がん細胞など、どのような種類の裏切りが存在するのか、そして、どのように「裏切り」を抑制しているのか、ということを見ていきます。進化の中で、「裏切り」は、どのように捉えられるのか。「進化的軍拡競争」というキーワードから、裏切りには、進化を促進する働きがあることを示します。また、「裏切り」は「協力」の価値を問い直すがある、と著者は言います。つまり、「裏切り」によって、これまで成功してきた「協力」は、未来にも成功するのか、と問い直すことができるのです。進化という点で見れば、アクセルとブレーキのようなものと捉えれます。最後に、これまでの進化の歴史から、今後の生命の進化を概観していきます。

生命の進化を眺めていくことで、なぜ人間などの生命が協力をしていくのか、生きている中で、ふと今までの当たり前に疑問を抱くことが可能になるのではないかと思います。単純に、生命の複雑化の過程を本書を通して、眺めるのも、とても面白いな、と思いました。

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