「世界の「住所」の物語」を読んで

作家のディアドラ・マスクによる「住所」にまつわる様々な問題を文献、取材を通して描く一冊です。「住所」があることで、現代社会で、どういった意味を持つのか、ということを、インドのコルカタ、ハイチでの事例を通して明らかにしていきます。住所がない、ということにより、社会の一員として受けられる恩恵に与れない問題。住所がないことによって生じる公衆衛生の問題。これらの問題が住所があることで、どのように解決されるか、実際に、それを解決しようとする人々の取材により、克明に描き出していきます。現在における住所の発展をお見た後、本書は、古代、中世、と住所が成立していった起源を見ていきます。古代ローマから近代と、人が「場所」を表すときに、どのように表してきたのかを見ていきます。その中で、どのように住所が成立してきたのか、を見てきます。近代の国家が成立する中で、国民を確認するための家屋番号がウィーンで誕生した経緯を概観します。家屋番号示す意味を、国家の視点から見つつ、家屋番号で特定された国民の視点からも考えていきます。また、フィラデルフィアの事例から、都市計画と住所という物語を見ていきます。住所の起源の物語は、そこから、住所にまつわる権力、そこに関わる人のアイデンティティに、どのように結びついていくのか、という問題も提示します。住所の名称を変更をする、ということと、その地の歴史観というものの危ない関係、というものが、文献から紐解かれていきます。住所、人、歴史、と、住所を基軸として、人がどのように生きるのか、人のアイデンティティの問題へと議論は広がります。住所、という扱いにくい問題が、私たちの考えに結びついて、問題が幾重にも折り重なっている現代を本書は明らかにしています。

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