「患者の話は医師にどう聞こえるのか」を読んで

ニューヨークの内科医ダニエル・オーフリによる患者と医師との間のコミュニケーションの問題を分析する一冊。著者のコミュニケーションの失敗、「コミュニケーションはとれていたのか」という自問から、本書は始まります。診断におけるやりとり、つまり、会話が重要な診断ツールである、ということを著者は繰り返し述べます。現代医学では、MRIやPETスキャンなどの高度な診断ツールがありますが、治療への道筋を示すデータとして、患者が医師に語るストーリーが重要なものになります。患者が語るストーリーと医師の聞いたストーリーが同じではない、という問題が日常的に起きています。本書では、数々の患者と医師の例、数々の研究から、コミュニケーション、患者と医師のやりとりが考察されます。そこには、患者の抱える問題、医師の抱える問題があります。患者は、自分の伝えたい病状のストーリーを伝えられているのか、治療の上で障害となる日常の問題を伝えられているのか、など、診察室の中でのコミュニケーションは行えているのか。医師は、患者の伝えるストーリーを偏見なく、固定観念なく聞くことができているのか。診察室で行われているやりとりの背後に隠れている問題を、丁寧に紐解いていきます。我々のコミュニケーションの背後にある思い込み、偏見、時間のなさという問題。「きちんと学ぶ」ということが、これらの問題の一部を解決する手口となること。会話について、私たちが「ほんとうの」会話をするための、きっかけと手がかりとなる一冊だと思いました。

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