「死にかた論」を読んで

京都大学の佐伯啓思教授による「死生観」に関する考えをまとめた一冊。本書では、著者が死について、あれこれ考えた内容が書かれています。安楽死というものが現出させた現代において、死をどのように考えるのか、どのように私は死ぬのか、という問いから議論が始まります。自分は安楽死を選択するだろうが、家族だけはダメなんだ、という叫びは何なのか。そこに隠れている様々な問い。これらは、どこから来ているのか。著者は、それを近代的合理主義の提出する人間の尊重という概念から説明していきます。ここでは、人間の尊重というものが、「生」の論理であり、そこでは「死」というものが追いやられていく、という事態が発生します。著者はここから、西洋の近代的合理主義を離れ、日本の死生観を振り返っていきます。日本の伝統的な死生観を、柳田國男、本居宣長、平田篤胤から見ていきます。そこで「顕」の世界と「幽」の世界、根源的な生命という概念を紹介します。ここから、日本の仏教、仏教が日本の伝統的な死生観と習合されていく中で、どのような死生観が生まれてきたのかを説明していきます。そこで、生と死の間に挟み込まれた無常とは何なのかを道元の仏性論から見ていきます。そして、生と死をそのままに受け取る、ということの意味を解いていきます。そこに、日本的な死生観の有り様が、どのような姿をしているのかを描き出していきます。著者は、死生観という個人的なものを、過去の死生観を参照としながら、個人が開くことによって、より良い生を拓いていく、そして、現代の「死に方」という問題に答えが見つかるのではないかと指摘します。

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