「自殺学入門」を読んで

和光大学の末木先生による自殺学、そして、生と死について考える一冊です。本書は、一般的な自殺を扱った本と異なり、「そもそも、自殺とは何のなのか?(第1部 自殺を理解する」「そもそも、自殺は予防する必要があるのか?(第2部 自殺は予防すべきか)」「どうやって、自殺は予防できるのか? 自殺を予防した、その後は?(第3部 自殺を予防する)」といった内容が述べられています。肝となる部分は、第2部かと思います。「自殺は悪いことであり、予防すべきものである」という前提を疑い、自殺は悪いことなのか、ということを他の死に方と比較しながら、検討を行なっていきます。第1部にて、ジョイナーの自殺の対人関係理論から自殺の姿を描き出していきます。ここから、冷静に分析を行っていきます(ここに、「はじめに」で著者が目指す「冷たい自殺学」の姿が垣間見えます)。近代、人間は合理的な意思決定を行う主体として考えられていました。しかし、最近の心理学、行動経済学が指摘したのは、「人間は限定された合理性の中で生きている。つまり、完全に合理的に意思決定を行なっていない」ということでした。「死の選択」のあり方、そこに対して、熟慮がされているのか、という点が重要になってくる、その「死にたい」という意思決定に誤りがないかを関わっていく、そこに結果的に予防というプロセスが組み込まれていく、という視点は、重要だと思いました。自殺の予防についても、関わりを絶たないことの重要さ、我々の行動はどうあるべきなのか、という視点を提示していきます。この分析は、徹底的に冷静に行われているからこそ、説得力が非常にあります。また、自殺の予防をした後のことも触れられている点が素晴らしかったです。

「死ななければそれでいいのか?」に対しては、一貫して、「どう死ぬのか(すなわち、どう生きるのか)が大事だ」と答えたいと思います。

本書の最後に語られるこの言葉が、確信だと思いました。生きることと死ぬことは、断絶しておらず、その間は地続きになっていて、幸福に死ぬ(生きる)、ということを考え続けなければいけない、と感じました。

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