「無数のひとりが紡ぐ歴史」を読んで

田中裕介氏編集による「日記」をキーワードに、書くこと、文化史、歴史と言ったものを問う一冊。本書では、日記の様々な性質から、日記文化を掘り下げ、近現代の日本の歴史を紐解く、という内容になっています。日記、家計簿、手帳といった、モノとしての日記が社会の中でどのような役割をしていたのかを論じる第一部、日記に書かれた内容から自己を語る意味を問う第二部と第三部、他者の日記をどう読むのか、読むことの意義とは何なのかを論じた第四部から、本書は構成されます。本書は、日記文化の幅の広さ、その掘り下げがどこに通じていくのか、という小さな個別な関心が、大きな歴史の中にどのように位置付けられていくのか、が論じられます。日記、というものが表象する個別的な事柄が、社会に開かれる契機が何なのか、という疑問。また、日記に書かれる自己がどのように表象されるか、という問題。この問題に真摯に向き合い、考えていく過程では、日記が持つ重層的な意味が掘り下げられていきます。この重層さは、個人的なものであるからこそ生まれます。そして、そこで語られる自己とは何なのかが問われます。また、個人的なものである日記を読むことは、いかなる歴史実践となるのか、を問います。他者との出会いが、自分との出会い直しに通じる瞬間として、歴史実践が何かが語られます。本書は、その射程の広さもあり、読む人によって、何を読み取っていくのか、ということが変わる一冊だと思います。

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