「未来のルーシー」を読んで

人類学者の中沢氏と霊長類学者の山極氏の対談をまとめた内容です。近代、現代に至るまでの人類の歩みを概観しながら、そこで発生した様々な事象と問題を考古学、宗教学といろいろな視点から切り込んでいきます。会話のキャッチボールの「なるほど、こういうボールもあるな」と驚くほどに、多様な議論の展開は、非常に面白かったです。人類史を振り返った先は、これからの人類の進み方、というものが話題になっていきます。その中では、今西錦司、西田幾多郎の哲学がキーワードとなっていきます。何度も出てくる考えとして、生命は環境に作用を与えるが、環境も生命に影響を及ぼす、ということです。西洋科学(近代科学)は、ダーリンの進化論に代表されるように「生命」を主語として考えていくが、東洋(主に仏教)の考えでは、生命も環境も混ざり合って、一つの世界が出来上がっていく、という点を指摘します。ここから、中沢氏の「レンマ学」につながる話が展開されていきます。そこへつながる京都人的思考(日本文化)など、述語の世界へと、どのように繋がったのか、という事が議論されます。本書自体が、雄大な「レンマ学」の導入であり、生命、そして、人間、世界を考えるための壮大な序論である、と感じました。

本書は、著者である中沢氏と山極氏の考えが色濃く反映されています。また、対談の形式となっているため、もうちょっと、この部分を突っ込んで知りたい、という箇所があったりします(例えば、認知革命に関する議論であったり、ゼロに関する議論)。人類の向かう場所を考えるときに、本書のような下地から出発する、あるいは、本書とは別の方向に向かう、という道標として、良い本だと思いました。

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