「人間をお休みしてヤギになってみた結果」を読んで

未来について心配するには想像しなければならない

人間特有の悩みから自由になるために、人間を「お休み」してヤギになる、という本書。誰もが持っている悩みを、いったん、捨てて、本能のままに生きる、という、一見すると馬鹿な試みを、大真面目に行っていく本書は、笑いもありつつ、その真面目さから、動物と人間の境界について考えさせられる良書です。

最初は、象になるプロジェクトからスタートをしつつ、開始直後に、実際の象をみた結果、象じゃないな、と方向転換のスピード感も凄まじいです。「え、そんなあっさり撤回するの?」と思いつつ、読み進めると、シャーマンの女性から「ヤギがぴったりだわ」と言われ、ヤギになることを目指す事に。

シャーマンからは、人間は他の動物になれるのか、という霊的な世界を学びつつ、実際に体験をしていきます。ヤギの認知や、ヤギと人との関わりの歴史、神経科学など、まずは精神、認知の側面からヤギになることができるのか、ということを考察していきます。この部分は、哲学などを引用しつつ、語られていきます。著者なりの考察は、なるほど、と思う部分も多々ありました。

内面の探究の次は、外面の探究となります。ヤギとなるための骨格を理解するために、ヤギの天国に行ったり、解剖学的にヤギのことを調べたり、と、知らないことを知っていく、という楽しさの満ちた内容です。人間がヤギとなるためには、どのような骨格が必要なのか、ということを工学的に解決するという物づくり的な面白さに満ちています。

スイスへ赴き、ヤギとして、ヤギの群れと生活し、アルプスを越える、という結末は、素晴らしい結末でした。四足歩行で歩く人間という新参者の巻き起こした一瞬の緊張感など、読んでいて、ハラハラする瞬間もありました。しかしながら、無事にヤギの群れに受け入れられる、というのは、最初のシャーマンの一言と結びつき、そこには霊的な世界が見えるようでした。

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