「毒薬の手帖」を読んで

サイエンスライターのデボラ・ブラムによる「ジャズ・エイジ」のアメリカを舞台にアメリカの法医学の誕生、その地位が確立していく過程を描いたノンフィクションのクライムサスペンスが本書です。300ページを超える本ですが、著者の物語の巧みさ、翻訳者の五十嵐さんの文章のうまさが相まって、読み始めると一気に、1920年代のアメリカ、ニューヨークへと思考が飛んでいきます。当時のアメリカ社会の姿、そして、数々の毒殺事件、それらがどのように解決されていくのか。表紙の写真の人物、病理学者チャールズ・ノリスと科学者アレクザンダー・ゲトラーの2人が、どのように毒殺事件に立ち向かうのか。まさにドラマのような話の展開は、読んでいて非常に面白かったです。ノリスがニューヨーク市監察医務局長として、どのように医務局を作り上げていったのか、いかに地道に監察医務局の地位を向上させていったのか。ドラマとは違って華々しさはなく、ただただ泥臭く、地道に成し遂げたのか。ゲトラーが、毒物をいかに鑑定していったのか。いかに毒物の性質を解き明かしていったのか。この本の見所はあげればきりがなく、読むことをお勧めします。

本書では、クロロホルム、メチルアルコール、シアン化合物、ヒ素、水銀、一酸化炭素、ラジウム、エチルアルコール、タリウムと、私たちもよく知る(そして、当時は、まだその性質が明らかではなかった)毒物による事件が多数登場します。どのような世情で事件が起きたのかなども克明に記されています。本書を読むことで、科学の進歩のすごさ、社会制度がなぜ今のように進展していったのか、など、多くのことを考えさせられるのではないでしょうか。

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