「<責任>の生成」を読んで

哲学者の國分氏と東京大学の熊谷氏の対談、講義を再構成した一冊です。本書は、「暇と退屈の倫理学」、「中動態の世界」と、暇と退屈、意思と責任を研究してきた國分と当事者研究で有名な熊谷の共同研究の過程で、どのような議論をしてきたのか、どういうものが、とりあえずの答えとして見えてきたのか、ということを対談、講義として議論したものとなっています。本書は、お互いの研究してきた「中動態」と「当事者研究」が、どのように関連するのか、ということを振り返るところから始まります。そして、その中で「責任」という概念がどのように立ち上がってくるのか、という話題へと向かっていきます。この過程で議論される中で、これまでのお互いの研究の個々の要素が、どのように位置づけられるのか、と議論は様々に絡み合っていきます。この過程でやりとりされる言葉が、相手から、別な視点が提示され、肯定され、さらに議論が深まっていく。自己と他者、意思と責任、責任と応答、と普段何気なく使っている言葉が、どういう作用を持っているのか、どういう概念であるのか、このことを徹底的に考えていく、という著者らの議論の広がりは、視界が広がっていくようでした。自分の人生を振り返り、過去を受け取り、それに対し、応答する。責任とは、どのような姿をしているのかを様々な事柄を考えていく中で、問い直していく、という議論は、そこから更に、我々の日常というものが、どのように形作っていくのか、という議論へと繋がっていきます。本書は、現代で息苦しさ、苦しさを感じる人にとって、考えの方向を示してくれる一冊ではないかと思います。

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