「「能力」の生きづらさをほぐす」を読んで

組織開発の専門家の勅使河原真衣氏による能力をめぐる「母から子に贈る」一冊。現代社会を取り巻く「能力」と呼ばれるもの。人材採用、評価、育成など組織開発を専門とする著者が、「能力」とそれを取り巻く社会について、自身の子と対話する形で述べています。本書は、社会が提示する「何々という能力があれば、うまくいく、成功できる」に対して、切り込んで議論を進めます。「能力」を議論とするのであれば、それは何なのか、ということを、まず考えていきます。その中で、能力というものが、周囲の環境によって揺れ動くものである、ということを提示します。そして、では、なぜ、「能力」が求められるようになっていったのか、という背景を議論していきます。そこでは、「能力」に関わるさまざまな言説が説明されます。心理学、組織研究など、学問的な背景。売上を求める企業の要求。これらがどのように交わって、影響しあったのか。そして、今、何が起きているのか、ということ。ここで、親子の対話は、最も深いところへ突入します。「私」という主体に対して、どのように関わっていくのか。日々の生活で生じる葛藤とともに、どうやって生きていくのか。「能力」を科学的に客観的に決めることで置き去りされた「私」という主体のあり方。その狭間でもがいている「私」を受け入れる、ということの難しさ。安易にわかったことにせず、自分で決めることの重要さを本書は説きます。本書は、「能力」という訳のわからないものに頼ってしまう人間の弱さ、その弱さを見つめ、もがきながら、他者と生きていく、ということを提示してくれます。

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