「何も共有していない者たちの共同体」を読んで

哲学者のアルフォンソ・リンギスによる共同体、言語、コミュニケーションなどについての論考をまとめた一冊です。本書では、近代的な合理性で描かれる共同体、情報伝達におけるコミュニケーションといったものではなく、私たちが対面する他者とは何者なのか、私と何も共有するものがない者と、どのような共同体を形作るのか、といったことの考察が行われます。合理的共同体と、その前にある別の共同体。コミュニケーションとは、それらの共同体において、どのようなものなのか。価値や評価といったものが、どこにあるのか、ということが説明されます。コミュニケーションとは、伝えられるメッセージを、その背後にあるざわめき、ノイズから引き出すことである、と指摘します。そして、発話は周囲の環境からの反響を含んでおり、コミュニケーションは、周囲の環境とも繋がっています。人と人がコミュニケーションをとる状況も、考察されます。そこでは、合理的共同体の一員としてのコミュニケーションと、それとは異なる本質的な状況がある、と指摘します。それは、私がその場に存在するということ、そして、何を語るかではなく、何かを語ることが重要である、という状況です。最後に、本書では、死にゆく人との共同体、死と私たちという関連を考察します。まず、私の個別性、自分と他者の同等性、交換可能性といったものが述べられます。そして、死とは、その中でどのようなものなのかが語られます。死の共同体のありよう、人が他者と出会うことはどういう行動なのかを描出します。本書は、今の時代において、より重要なことを考えさせる一冊だと感じました。

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