「人類学とは何か」を読んで

人類学者ティム・インゴルドによる未来に向けた、著者の思想を元にし、未来に向けた人類学を描いたのが本書です。「私たちはどのように生きるべきか?」という問いに対して答えるのが人類学である、という提示から、本書は始まっていきます。人類学は、なぜこの問いに答えられるのか。人類学は、「世界に入っていき、人々とともにする哲学」と定義します。「人々とともに」という人類学の姿勢は、客観性の欠如という批判もありますが、著者は、これは強さである、と答えます。人類学の仕事は、知識に、経験と想像力の溶け合った知恵を調和させることと述べます。知恵があるとは、世界に飛び込み、そこで起きていることにさらされる危険を冒すことである、と。ここから、著者の描く人類学が、過去の人類学へ行き来しつつ、人類学の重要性を述べていきます。

人類学はどのようになっていくのか。最後に、著者はこの問いを考えていきます。著者は、パウル・クレーの「アートは見えるものをつくり出すのではなく、見えるようにするのだ」という格言を引用し、アートと人類学の共通点を指摘します。どちらも、世界をあるがままに写す鏡という面があります。人類学は、そこから思弁をしていく、そして、他者、あるいは世界に問いかけていきます。これは会話であり、関わる人全てを変容していく、というプロセスとなります。

私たちが、これからの、どのように生きていくのか、そのために考えること。彼らと私たちの関わりが、どのようにあるべきなのか、ということを捉え直す一冊だと思います。

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