「うつくしさ」を読んで

神戸女学院大学の奥野教授を編者とした「古典」を手がかりに「生きること」を考える「日常を拓く知 古典を読む」シリーズの一冊です。本書では、東西の古典を見ながら、「うつくしさ」をテーマとしています。「うつくしさ」を言語化する試みが、なぜ重要なのか、感性の時代に翻弄されずに生きていくため、先人の知恵から私たちはどのように考えていくのか。本書は、さまざまな古典を、テーマごとに見ていく中で、「うつくしさ」について考えていきます。美に対する憧れ、美に誘惑されることを「ヴェニスに死す」を題材に「うつくしさ」をどのように捉えていくのか、ということを述べています。古典的美学と、小説、映画での描かれ方がどのように関係するのかを解説しています。そして、日本古代中世史、公衆衛生、英文学、宗教学というテーマから、「うつくしさ」を考えていきます。古代の貴族社会において、「うつくしさ」はどのように捉えられていたのか、ということを見ていきます。当時の貴族において、美は政治と結びつき、能力を示していました。社会との関係における様相というのは、現代にも通じるものがあるのではないかと思いました。公衆衛生での議論では、美醜がどのように表現され、うつくしさと健康が結びついたのか、ということが議論されています。美がとりだたされる、ということは、一方が消える、ということを意味せず、巧妙な判断の物差しが提供される、という事態を確認していきます。「うつくしさ」というキーワードから、現代の社会において、当たり前と思われる考え方への疑問を提示し、我々はどのような社会を目指していくのか、ということを問いかける一冊です。

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