「「家庭料理」という戦場」を読んで

一橋大学の久保准教授による「家庭料理」をめぐって繰り広げられる問いと「暮らし」という「見えない足元」を考えるための本です。「家庭料理」というダイナミクスを通して、暮らしの変遷を分析し、その中で、「あなたはどうする?」と本書は問いかけてきます。「家庭料理」というフィールドを、どのように見るのか。その変遷を、モダン、ポストモダン、ノンモダンという区分で検討していきます。私たちが「家庭料理」と言った際に思い浮かべる「一汁三菜」という形態が、どのように出来上がっていったのか、というモダン(1960〜70年代)。そして、定型が脱構築されていくポストモダン(1980〜90年代)。脱構築の末路として、家庭料理が無効化されていくノンモダン(2000〜2010年代)。この過程を、社会の変遷とともに分析し、足元にある「暮らし」を自由にデザインできるのか、という問いを考えていきます。

本書では、「我が家の味」「おふくろの味」というものが、どのようにして構築されていったのか、消費社会が拡大する中で「手作り」がなぜ大事になったのか、「手抜き」がなぜ非難されるのか、ということを描き出していきます。「村の味」が「我が家の味」となる過程での簡易化、その上に成立する「手作り」「我が家の味」という標準化がされていく、という流れ。そして、その中から、定型的な家庭料理を脱構築していく、という流れ。そして、共同性というキーワード。家庭料理をめぐるものが何なのか、ということを丁寧に描いていきます。いろいろな要素が絡み合って、家庭料理が意味づけられるていく様は、非常に読み応えがありました。

「なぜガーリックはニンニクではないのか?」という本書の核心に肉薄する章は、暮らしと、このような分析がいかに転倒していくのか、を論じつつ、私たちはどのような主体なのか、を示していきます。私たちが、暮らしと分析の狭間で、いかに生きるか、を考えていく、身近な一冊でした。

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