「死者の民主主義」を読んで

イギリスの作家チェスタトンの主張した「死者のための民主主義」というキーワードから始まり、死者、妖怪、幽霊、など、見えない世界と人がどう関わってきたのかを民俗学の視点から見ていく、という内容です。「死者のための民主主義」という考えは、ほぼ同じ時期に(当時は、まだ官僚だった)民俗学者の柳田國男も「時代ト農政」の中で主張を行った内容です。「あとがき」にて、著者が「集めもの」というように、本書のそれぞれの内容は各媒体に掲載された文章をまとめたものです。この結果、非常に幅広いものが、現代という社会とどうつながっていくのか、ということがよくわかる内容になっています。

第1部では、「人ならざるもの」と社会の関係性が述べられます。ここでは、死者、妖怪、精霊との関係、祭、といったテーマが語られます。妖怪を発見し、育てる、という視点は、知的な豊さを、どことなく感じる視点で興味深かったです。

第2部では、テクノロジーの進歩と民俗的心性を絡めて、最近のテクノロジー(AI、VTuber、VRなど)を眺めていく、という内容です。VTuberと人形浄瑠璃を比較する「VTuberは人形浄瑠璃と似ているか?」は、現代の視点と過去の視点が交差する、とても興味深く、なるほど、と納得する内容でした。第2部は、どの内容も、こういう視点もあるのか、と著者の視点の高さとともに眺めていく面白さに包まれていて、非常に良い読書体験でした。

第3部は、過去から現在と、日本人の信仰を眺めていく内容です。こちらは、今までの思い込みを剥ぎ取っていく、という面白い内容でした。江戸時代の若者の「休日増」を勝ち取る話などは、現代の働き方改革でも参考になるのではないか、と思いました。

第4部では、過去の人々の行為と我々の行為とを探る、面白い内容でした。「百姓」についての考察は、この内容だけでも、一冊の本が書けるのだろうな、と思うほどに、読み応えのある内容でした。

内容の幅広さ、民俗学者という視点、何より、著者の見識から読み解かれる論考は、非常に興味深く、一読すると、世界の見え方が変わるのではないか、と思います。

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