「誰がために医師はいる」を読んで

精神科医の松本俊彦先生によるアディクション臨床の現場から、著者が見てきたもの、社会への発信など、様々な問題を扱ったエッセイです。依存症に対する著者の視点が変わった瞬間を、著者の体験を通して、読者も追体験させられる文章は読んでいて、感情を揺さぶられる者です。著者の依存症とは何か、社会はどうあるべきなのか、といった内容は、読む者自身も、考えずにいられないものになっています。また、自分の身に置き換えて、自分が依存症にならない、という感覚も揺さぶられます。また、患者に対し向かい合う姿勢の変化や、著者が何を考えているのか、といった内容には、依存症という問題のこれまで見えていなかった一面が見せられます。著者の実際の臨床の場で起きたこと、それから著者の感情の発露、著者の考えたことといった内容は、そのまま、私たちが社会というものをどう考えていくのか、ということと繋がっているのではないかと思いました。「聞くこと」「人に依存できる」ことといった、患者と社会のつながりの重要性、孤立することの問題といった、依存症に限定されない現代社会の問題が、本書からは見えてきます。本書は、その射程の広さから、現代社会に生きる我々にとって必読の一冊ではないかと思います。

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