「唯識・華厳・空海・西田」を読んで

東洋大学の竹村牧男教授による唯識思想、華厳思想、空海の思想・哲学、西田幾多郎の哲学を通して「人間存在の原構造」を考えていく一冊。インドから中国、日本、そして、古代から近代と展開していく東洋の思想、哲学を「自己」というキーワードから見ていきます。唯識思想から、識とは何かということを「成唯識論」などを見ながら、解いていきます。そして、識とは事であり、事的世界観としての唯識思想を説明します。このように説明された時、唯識思想での他者の問題が立ち上がってきます。ここで、華厳思想へと展開が行われます。「華厳経」の思想を見ていきます。華厳経が説明する修道論、仏心論から、十重唯識論から、現実世界を解き明かしていきます。事事無礙法界という事と事が溶け合った世界が自己であるような世界が描き出されていきます。事事を人人として見たときに、空海の曼荼羅の世界が開ける、と著者は言います。ここから、空海の密教がどのような世界を提示するのかを空海の著作を見ながら考えていきます。そこから、事という主客が互いに関わるものであり、重々無尽の関係の中にあることが明かされます。ここから自己の主体性が見えてきます。これまでに見てきたものから、「超個の個」の哲学として、西田幾多郎の哲学を見ていきます。西田の明かしている他者と自己の関係、他者の全体が自己であるという表明を検討していきます。そこには、これまで見てきた華厳思想、空海の曼荼羅即自己につながるものがあることを説明します。本書を通して語られる「自己とは何か」という問いに対する「個は個に対して個である」という哲学。そこには、現代ますます重要になっている我々の態度が示されているのではないかと思います。

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