「ことばの起源−猿の毛づくろい、人のゴシップ」を読んで

「ダンバー数」を提案したことでも知られるロビン・ダンバーによる言葉の起源を俯瞰する一冊です。本書では、言葉の起源を猿、類人猿、人類と、その進化の旅の中で、どのように群れを維持してきたのか、という軸の中で追っていきます。「私の背後にいる猿」の社会生活を俯瞰しながら、猿がどのように群れの中で生活をしているか、どのように群れを維持しているのか、ということを生物学、脳生理学など、さまざまな観点から眺めていきます。猿の行動、それが、どのように個体に、そして、相手に作用しているのか。著者ならではの視点から、論が展開していきます。毛づくろいが、いかにして、猿のコミュニケーション手段として重要なのかを「脳」(エンドルフィン生成、新皮質の相対的な大きさ)をキーワードに解き明かしていきます。猿から分岐して進化していく過程で、人類が森から追われていったのか、遠い我々の祖先に起こった出来事を巡る旅が繰り広げられていきます。断片的な証拠から、論を検討、展開していく著者の語りは、非常に面白く、興味が惹かれました。脳が大きくなるにつれ、群れの規模が大きくなるにつれ、毛づくろいによる接触ではなく、声による接触へと変化していく。この進化を説明するために、心の理論、志向意識水準といった道具を用います。言葉による接触が、これらの道具を使い、いかに規模の大きくなった群れを維持するために生まれてきたのかを明らかにしていきます。

言葉の起源を見てきた後は、言葉がどのように進化していったのかを概観していきます。バベルの塔の寓話、言葉がどのように、それぞれに進化していったのか、そのダイナミクスな様を説明します。その協力と裏切りの動的な関係は、過去のことでありながら、現在にも残り続けているのではないか、と思いました。この言語のダイナミクスさを現代まで辿っていきます。著者の示す言語の起源は、我々が効率のために無くそうとする「むだ話」の必要性を一条の光で照らし出します。

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