「ゼロからトースターを作ってみた結果」を読んで

自分の力でトースターを作ることはできなかった。
せいぜいサンドイッチぐらいしか彼には作ることができなかったのだ。

ダグラス・アダムス著「ほとんど無害」の引用文から始まる本書は、読む人の立ち位置によって、分類の変わる、面白い本です。「トースターを原材料から作ることができるのか?」という疑問に対して、実際に、トースターを作ってみた、という内容です。語り口の軽妙さから、単純に「笑えるドキュメンタリー」としても楽しめます。著者の視点からトースターを通して見えてくる現代社会に対する考察を楽しむこともできます。

「ゼロからトースターを作る」プロジェクトは、著者の卒業制作としてスタートします。「ゼロから」「トースター」を作る上で、いくつかのルールを決めます。

ルール1
「トースターは店で売っているようなものでなければいけない」
ルール2
「トースターの部品はすべて一から作らなくてはならない」
ルール3
「自分でできる範囲でトースターを作る」
(ルール4、という隠しルールもありますが)

トースターを作る、という著者の試みは、トースターを分解し、部品を分類し、必要な素材を調べるところから始まります。そして、鉄、雲母、プラスチック、銅、ニッケルを手に入れ、トースターを組み立てる、というプロジェクトの記録を軽快な口調でコミカルに語っていきます。人類が蓄積してきた技術、そして、その技術が専業化、分業化されていくことで、個人の手を離れていったのか。それが、引用文に端的に表されています。

数々の失敗をし、苦労をして、「鉄鉱石から鋼鉄を作る」という過程で、産業革命以前、以後での製鉄のプロセスの違いが述べられます。それは、現代人的な勘違いを暴露するものでもあります。著者の製鉄のプロセスは、まさに、人類の積み上げてきた知識、技術を、さらっと見ていく、興味深いものでもあります。そして、苦労して、鋼鉄を作った後、帰路に着く著者の目の前に広がる「ありとあらゆる場所に転がっている」鋼鉄のある景色。

こうして、数々の失敗と苦労をしながら、トースターを作り上げた著者。そして、そのトースターを作ることで得られた考察は、環境問題、文化論などなど、とても面白い考察でした。本書を読んだ後には、ただの「トースター」も、これまでと違って見えてくると思います。

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