「街の人生」を読んで

社会学者の岸氏による5名の人物のインタビューをまとめた一冊です。それぞれの人は、それぞれの人生を生きる普通の人です。外国籍のゲイ、ニューハーフ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、ホームレスと、様々な背景を、それぞれに生きる人たちの自分の人生の語りが、ぽん、と置かれているのが本書です。著者による編集は、最低限に留められているがゆえに、会ったことのない人たちの声を通して、自分史が語られているような感覚を覚えながら、本書を読んでいる、という読書体験でした。人生が、生のまま、インタビューという断片であること。何か教訓めいた話があるわけでもなく、ただただ、その人の人生を語ること、その人生の状況でどういう体験をしてきたのか。「現在」という状況までの話。その中で、どう思ったのか、どうしてきたのか。そこには、何か劇的なことがあるわけでもなく、ただただ、状況があります。決して特別な人たちではないからこそ、語られる内容の普遍さがあります。この状況が、身近にある、という可能性。そこで語られる心情。「居場所」「私」など、様々なテーマをぼんやりと取り囲む本書での語りは、遠くにありつつ、近くにある、という普遍なテーマを考えさせるものだと思います。

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