「断片的なものの社会学」を読んで

社会学者の岸さんが聞き取り調査の現場で出会った「分析できないもの」を、そのままに、「ここ」にある、という本です。それは、ただただ、断片で、個人的で、無意味で、それゆえに解釈や分析というものをさせない。世界は断片的で、断片故に、強く惹かれる。断片としてのエピソードが、ただただ、秩序なく並んでいる。いわば、いろいろな場所に置かれた定点カメラが捉えた映像を、ドキュメンタリー番組的に、静かに見ている。そんな体験をさせてくれる。本書は、言語として見ることができないものを、ただ静かに照らす。光景は他人のものだが、その静けさから、やがて、自分が入り込み、自分の境界がどこにあるのかを考える。ただ、考える。そういう静かさのある本です。だからこそ、本書は何度も読み直すことをさせていくのだと感じました。

断片は、ただ断片のまま、そこに置かれている本書。だから、読む人によって、読むまでに、どんな断片を集めてきたかで、どのエピソードを掬い上げるかは変わってくる。「私たちの人生は、欠けたところばかり、折り合いのつかないことばかりだ。」はっきりした答えは、どこにもない。ただ、私たちは、断片的なものを考え続けていく。そんな場を開いた本です。

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