「かたちは思考する」を読んで

横浜国立大学の平倉准教授による「芸術と呼ばれうるもの、形がどのように実現されていくのか、それがどのように見る人を揺り動かすのか」を論じた一冊。本書は、芸術と言われたときに一般的に思い浮かべる絵画、屏風、映画、演劇に加えて、芸術とは捉えられない記録写真も、論の射程に含んでいます。ここには、芸術とは何か、に対する著者の考えが反映されており、その考えの開放性が、本書で論じられる芸術、形象が人とどのように結びつくのかを、圧倒的な知識でいろいろな点をつなげていきます。本書では、作品の制作過程の分析を通して、最終的な形で何か意図されているのか、を深く考察していきます。制作過程を通した論と、完成した作品がどのように鑑賞者に受容されていくのか。そこには、哲学、心理学などのさまざまな理論を援用し、作品と鑑賞者がどのように巻き込まれていくのかを論じます。そして、思考というものが、どのように発生するのかを論じます。この複雑に入り組んだプロセスに対し、明確に線を引いていき、私たちはをどのように揺り動かしていくのかを述べます。本書の示す芸術の思考を捉える試みは、私たちの思考を遠くへ連れていくものだと感じました。

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