「0番目の患者」を読んで

リュック・ペリノによる「逆説の医学史」。医学史では、医者による輝かしい功績などが語られますが、ここでは、医者ではなく患者にスポットライトを当てます。近代医学の歴史を振り返りつつ、哲学者のジョルジュ・カンギレムの「正常と病理」の言葉を引用し、本書を執筆した理由を述べます。これまでの医学史は、その発展に貢献した患者を蔑ろにしている。医学史で犠牲になった患者を取り上げることで、医療の逸脱などの問題を示しながら、患者の物語を語っていきます。ここで語られる物語の数々は、ある一面から見ると華々しい医療の発展ですが、その背後にいる患者を主役にした途端に、別な側面が浮かび上がってきます。見せ物にされた患者。抑圧された患者。自説のために蹂躙された患者。繰り返し述べられてきた倫理遵守という言葉が、なぜ繰り返されてきたのか。本書は、その実態を、患者のストーリーの中で指摘していきます。医者の、そして、医療市場の傲慢さ、残酷さに対し、どのように対峙をするべきなのか。そのことを著者は、本書の様々な歴史の中で指摘しています。本書は、診断と治療、医者と患者の間の関係が、過去から現在にどのように変わっていったのか。その中で登場した「商人」という存在を指摘します。私たちは、過去からどのように進んでいくのか、ということを考えさせられる一冊でした。

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