「働くことの人類学」を読んで

文化人類学者の松村氏とコクヨ野外学習センターによる「働く」ということを問い直す一冊。本書では、働くこと、生きること、仕事とは何か、自由とは何か、という問いをトーライ社会、ブッシュマン、ダサネッチ、タンザニア商人、モン族、AIという様々な社会、文化を見ながら、これらの問いを考えていきます。本書では、日本、ひいては西洋的な価値観に基づく社会での考えが、それぞれのフィールドから見るとどのように見えてくるのか、ということを議論しています。ブッシュマンの考え方と開発プロジェクトの間にある考えを、私たちは当たり前と思いますが、それはブッシュマンには当たり前ではない、という事実は、私たちにとっても、言われればそうだ、と感じさせます。「新しいものの方が良い」と「どちらかを選ばなきゃいけない」というのは、自明なことではない、というのは感覚には同意できるものだと感じました。ここで繰り広げられる話は、自由であることとは何なのか、我々はどういった態度であるべきなのか、ということが主題となっていきます。本書では、これらの議論を下敷きに、働くこと、生きること、というテーマを語っていきます。ここでは、私たちの社会がどのように成り立っているのか、どういう考えを前提として持っているのか、ということが語られます。人間が自立するということのあり方、人類学的な思考が、どのように問いかけを起こさせるのか、ということも語られます。本書は「働く」ということが、私にとって、どのように捉えられるのか、そして、それをどのようにずらして行くのか、というヒントを与えてくれる一冊だと思いました。

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