「手の倫理」を読んで

東京工業大学の伊藤亜紗による触覚から考える人間の関係性、「手の人間関係」について考えた一冊です。触覚、つまり、人が人に「さわる」、人が人に「ふれる」という行為は、ケア、介助、子育て、看取りなど、私たちの人生の様々な場で行われます。そのとき、「さわる」「ふれる」ということは、どういう意味を持つのか、また、どのように私たちは向き合うのか、ということを「倫理」というキーワードから考えていきます。「倫理=個別」という検討から、倫理が与える考えるための道具、考え方の可能性を広げるもの、という姿を描きます。そして、西洋哲学の触覚論を紹介しながら、我々にとって触覚とはどう捉えられているのか、ということを見ていきます。ここでは、哲学の中で語られたものと、著者が実際の研究などで見た触覚にまつわる話を中心に語られます。その中で、「さわる」で考えられた触覚を「ふれる」の世界へと広げていきます。ここから、「信頼」「コミュニケーション」「共鳴」というキーワードでさわる・ふれるを考えていきます。ここで、距離がマイナスになり、相手と自分という関係が溶ける、そんなコミュニケーション、人間関係のあり方の輪郭を描き出します。触覚が別のリアリティの扉を開く、今のリアリティを不確かなものにしていく。触覚の不道徳性を示していきます。しかし、この不道徳性は触覚が倫理的である、ということを意味しています。触覚を通して、他者と出会い、持続的に関わっていく。それは自分の中の異物となった自分と出会うことも意味しています。この触覚の示す姿は、倫理として、私たちに何かを問いかけているのだと思います。そのことを考え続けることが、大切なことなのだと感じました。

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