「読んでいない本について堂々と語る方法」を読んで

パリ第8代学の教授ピエール・バイヤールによる「読んでいない本について、いかに語るか」という本です。本のタイトル、本の提示する内容から、ハウツー本のような体裁を思わせますが、そうではなく、「読書とはなんなのか」「教養はなんなのか」といったことを、一点に向かって論じていきます。その鮮やかさ(本書自体が、本書の実践であるという巧みさ)は、衝撃とも言えない、気がついたら、足場がなくなっている驚きでした。「読書」という概念が無意識に提示する「本を読んだ」「読んでいない」という状況に対し、疑問を呈し、その概念の解体を行い、「本を語る」という事象を捉える。この中で実例をひきつつ、その曖昧さを暴いていきます。本書で提示される「本を読んだ」「読んでいない」という概念は、2面的なものではなく、グラデーションを伴った表象として、鮮明に描き出されていきます。これは、我々の実感からしても、その通り、と納得ができる話ではないかと思います。「本」というものは、実体を持った物質(紙とインクで構成された物体)でありながら、その実体から離れた諸相を持つもの(「内なる書物」「遮蔽幕としての書物」「幻影としての書物」)として現れてきます。書物は、読者と出会った瞬間から、実体を離れたものとして、読者と関係していきます。そして、読者は他者と関係する中で、本と関係していきます。読者と他者の関係の中における本は、どのようなものとなるのか、読者と本の関係はどのように結ばれるのか。この点が、本書における「読んでいない本について堂々と語る方法」となります。

本書は、これまで大きな声で語られていなかった、いわば禁忌について、哲学をした本です。その実践を行う中での難しさ、実践の向かう先にある希望を、鮮烈に唱えていきます。自己創造のプロセスの中にある自己の中にあるテクストを掬いとることの重要性が説かれた一冊です。

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