「いちにち、古典 〈とき〉をめぐる日本文学誌」を読んで

甲南大学の田中貴子氏による時間とテーマとした古典の入門書です。本書では、1日の時間、朝から真夜中まで、それぞれの時間帯をテーマにさまざまな古典から歌などを引用し、話が展開されます。取り上げられる古典も、平安時代から江戸時代と幅広い時代が取り上げられます。一日、という誰にとっても変わらないものが、時代ごとに、どのように過ごされてきたのか、そして、時代ごとに、その時々の過ごし方がどのように変わってきたのか、ということを源氏物語をはじめとしたさまざまな古典に書かれた文章や和歌、そして、絵巻に描かれた表現などから読み取っていきます。本書は、身近な時間という概念から、古典を眺めることで、当時の人々が生き生きと描いていきます。「あさ」の章では、「暁」という時間帯が、時代を下る中で、どのように変わってきたのか、ということが物語での描かれ方を通して見ていきます。平安時代、暁は別れの時間であったものが、徐々に仏教色を帯び、救いの時間として捉えられていく、という移り変わり。夜、という、人間と怪異が主役の座が変わる時間帯。どのように人間が怪異と付き合っていたのか、という真夜中の時間の物語。現代を生きる私たちとも通じる部分や、当時の人たちの信仰や考え方に基づいた風習など、本書を読むことで、古典をさらに楽しむことができるのではないかと思います。

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