「川瀬巴水探索 無名なる風景の痕跡をさがす」を読んで

川瀬巴水とその時代を知る会による川瀬巴水の版画に描かれた風景を求めて、その土地を訪れ、地元から巴水の描いた絵を理解していく、という一冊。「旅情詩人」として高い評価を受けている川瀬巴水は、日本全国を旅し、そこで見た景色を多く残しました。本書では、川瀬巴水の残した作品のうち、茨城、東京、小樽の景色を探し、旅をしていきます。これらの作品が描かれた場所を、どのように探していったのかが、本書で描かれます。巴水がいかに風景を見ていたのか、ということと鑑賞者が、どのように見るのか、ということが繋がることで実現していきます。そうして、風景が描かれた場所を訪れることで、巴水がなぜ描き残したか、といったのかを考えます。そこには、その場所の歴史であったり、巴水と人のつながりであったり、様々なものが見えてきます。本書は、川瀬巴水の風景画をどのように楽しむのか、ということに新たな視点を提示しています。風景画に描かれた風景はもちろん、その中にいる人々についての視点。その場所に住む人々にとって、その場所がどういう意味のある場所なのか、という視点。単に美術館で鑑賞するだけではない絵の楽しみ方。本書の試みは、巴水の風景画が持っている魅力を楽しむための手がかりになると思います。

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