だいすき
小川糸 『さようなら、私』
より。
ネタバレを込めて。
込み上がる想いも込めて。
『せかいでいちばんだいすきなおかあさんへ』
そう。
読者の私だって、だいすきだった。
とことん、大好きだった。
とんでもなく大好きだった。
おかあさんのこと以外、目に入りはしなかった。
いつも笑っていて欲しかった。
いつも元気でいてほしかった。
ちょっとでも負担になりたくなかった。
お荷物にはなりたくなかった。
怒らせて、大変な想いをさせたくなかった。
そうやって、口を閉ざして、縮こまり、ただでさえ傷つきすぎて一人で抱え込めないほどの思いを抱えていたのに、おかあさんの想いまで抱え込んだ。
そうやって、私の人生を、暗闇の中に閉じ込めてしまった。
けれど。
それでも。
過去は変わらない。
どれほど嫌いでも。
どれほど醜くても。
どれほど気持ち悪くても。
私は、おかあさんが大好きだった。
その気持ちだってホンモノだ。
今、おかあさんのことが大嫌いでもなんでもいい。
私は、おかあさんのことが大好きだった。
だから、人を好きになれるよ。
だから、私のことも好きになれるよ。
すっごく嫌いでも、突き放したくなっても、好きになれるよ。
だって、おかあさんのことがだいすきだったんだから。