うたかたの夢
わたしの勘違いだった。
「あ~、あの子?んなわけないじゃん。
あの子はまぁ、可愛いけど妹みたいなもんだから、ナイナイ。
仲いいけど、それ以上は考えらんないな。」
休憩中にみんなのお茶を入れに給湯室にいた私は、聞くつもりなんてなかったのに、
先輩が、社内で美人と評判の新人派遣社員とそんな会話をしているのを聞いてしまった。
「え~、そうなんですかぁ?てっきりいつも一緒にいるから、おつきあいしてるのかなぁって思ってましたぁ。」
「いや、俺はどうせ付き合うなら、君みたいな子がいいに決まってるじゃん。ただ、面白いからよく話したりしてるだけよ。」
・・・・・・・・。
最初からそんなわけなかったんだ。
あなたがわたしのことを 好きかもしれないなんて
そんなはずあるわけなかった。
ずっと想いを寄せていたあの人への情熱と慕情は、収まりどころがなく、
一瞬にして打ち砕かれ粉々に散っていった。
お茶をのせたトレーを持つ手がブルブルと小さく震え、
並行を保っているのがやっとだった。
一瞬でも、あの人もわたしと同じ気持ちかもしれないなんて、
思ってしまった自分が恥ずかしくなって、
喉元が苦しく締め付けられる感覚になる。
泣きそうになる顔を見られないようにうつ向いて、
小走りで給湯室を出ると、デスクにトレーごとお茶を置いたまま、
一目散にお手洗いへ走った。
完全にわたしの勘違いだった。
そんなわけやっぱりなかったんだ。。
ジャーと勢いよく蛇口から流れ出る水道水が、
洗面所の周りに飛び散り、私のグレーのジャケットに沢山の水玉模様をつくった。
私は涙を隠すようにバシャバシャと顔を洗い、滴る水をぬぐう気力もなく
しばらくぼーっと鏡を見つめた。
速乾性のジャケットから次第に飛び散ってついた水玉模様が
今日起こった出来事が何事もなかったかのように、
少しづつフェイドアウトしていく。
それはまるで、わたしが見ていたけして叶うことのない、
淡いうたかたの夢のように思えた。
作者:flyhigh(ふら)
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