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傷とふぁろ。

たくさん傷ついてきた。
傷ついてきたことを無視してきた。
無視してきたことによって、幾分か楽になれた。
自分に傷は一つもないことを錯覚した。

今、それに傷ついている。
肌よりも薄い布を剥ぐと、抉られた肉がそこにある。
傷がどれかさえもわからないくらい、抉られている肉が
鼓動を打ちながら悲鳴をあげている。

おぼつかない仕草で、傷を、吟味するかのように
触り方のわからない、汚物のように
今、触れずに、全体を空で撫でるように手を滑らせている。

きっと、触れてしまうとその肉は痛いだろうから
あまりに、触れられないほどに、血を流すから

崖のようなその肉から垂れ落ちる血の滝には
気持ち悪さを覚えた。
汚く見えた。

自分の痛み、嫌なこと、好きなこと、
得意なこと、苦手なこと、過去
全て他人にとって「どうでもいい」だろうから
人に話してこなかった。自分でもわかろうとしなかった。
自分のことなんかどうでもよかった。
しかしこの肉は、「どうでもいい」なんて思えるようなものじゃなかった。

自分のこの汚らしいものに絶句した。
臭い、汚い、怖い、醜い、わからない。

何度も胃酸を飲み込んだけれど
止まらない嘔吐
嗚咽
隙間風のような、枯れた呼吸
汗、涙、涎、鼻水
過呼吸、過呼吸、過呼吸

そうしている間にも、
肉から垂れ落ちた血の溜りは音をあげて広がっていく。
波を呼んで、汚臭を漂わせる。

私はこの肉に立ち向かえるのだろうか。

あまりにも手遅れなこの肉の塊に、絶望した。


全長約170cm



はかぬ間に 粗忽しよかな 変え絶えに
ある潮(うしよ)の端(は) 遠いナラニへ   柔和

この短歌は、地獄と孤独を詠っている。
ナラニとは、どこだろう。

ふぁろ


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