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[レポート] 《ニュートラ談義》 Vol.01 福祉の現場をいかす、価値のあるものづくり

NEW TRADITIONALでは、これまでに各地でさまざまな人たちとともに交流と対話、実験と実践をつづけてきました。その一つとして、各地で取り組む実践者と福祉×伝統工芸の可能性について語り合う「ニュートラ談義」を定期的におこなっています。3月6日(日)は、Vol.01として、「福祉の現場をいかす、価値のあるものづくり」がテーマでした。障害のある人とともにものづくりに取り組む事例を、3つのテーマを設定したうえで紹介しました。福祉施設の中と外とそれぞれで価値を共有したり交換したりすることで生まれる効果や、素材や原点に目を向けることで得られるもの、誇れる仕事づくりなどについて話しました。

お話したのは、それぞれの立場で実践する人たち5組です。
登壇者:高野賢二(クラフト工房La Mano)、前川亜希子/前川雄一(HUMORABO)、武田和恵(やまがたアートサポートセンターら・ら・ら)、軸原ヨウスケ(ドンタク玩具社)、安部剛/松本綾(Good Job!センター香芝)
進行:森下静香(Good Job!センター香芝)

* ゲスト登壇者のプロフィールはこちらからご覧ください。

テーマ1「届け方・売り方を考える」

▽デザインユニット「HUMORABO」前川雄一さん、前川亜希子さん
「福祉とあそぶ」をテーマに障害のある人の仕事に携わっています。福祉施設で漉く紙「NOZOMI PAPER®」の製品および仕組みについて、いかに取り組む人たちが誇りをもち、また買ってくれる人にも喜んでもらえるかを重視したうえで開発してきたか、紹介していただきました。

福祉施設のものづくりでは、付加価値のあるものを作りたいと思っても施設職員だけではなかなか難しいこともあります。福祉の現場にある可能性や豊かさに目をむけながらも、ものをつくるだけではなく、使いたい人や使ってくれる状況もふくめてつくりだしていくことが重要です。

南三陸にあるNOZOMI PAPER Factoryは、福祉施設とデザイナーが共同で運営しています。
・デザイナーは消費者目線・時代の需要や感度をもちこむ。そこで得た、生活介護の福祉の現場からうまれた課題などを社会に提示する
・福祉施設の、支援されるだけの関係で終わりたくないという気持ちを汲んだ、循環づくりの後押し
・紙パック=社会からの支援のかたち=買おうと思っても”買えない素材”から作ることが価値になる

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のぞみ福祉作業所の職員さんも、前川さんから提示されていることについて、はじめはちんぷんかんぷんだったそうです。前川さんたちが時間も手間もかけて介入してきたことや、売り場に立って紙が「売れる」ことを実感したことなど、施設の外部の人の考えや周囲の状況に触れてものづくりへの見方が変わっていったそうです。
また、前川さんからは、コーディネータの重要性についても言及がありました。

▽Good Job!センター香芝 安部剛
流通部門を担当する安部さん。130以上の福祉施設等で製造されている商品2,000種ほどを、店頭など4つの方法で販売しています。その主たるオンラインショップ「GOOD JOB STORE」は、ウェブサイト運営や商品の発送を、メンバー(施設利用者さん)が担っています。SNS発信、商品紹介文の執筆や写真撮影も、その時ごとに携わるメンバーが行います。一貫性が無いようですが、見守りたくなるようなストアです。

もう1つのショップ「gjkogei.shop」では、NEW TRADITIONALでうまれた商品など、GOOD JOB STOREで扱うよりもやや高額なものや、完成までに長い背景をもつ商品を扱っています。これらの商品を、これまでと違うお客様に届けたいと考えたときに、施設の外の人から力を貸してもらうことで達成できました。

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テーマ2「ものづくりの原点に触れ、価値を共有する」

▽クラフト工房LaMano(らまの) 高野賢二さん
LaManoは東京都町田市、すぐ近くに住宅地があるとは思えないような自然にあふれた環境にある福祉施設です。織る、染める、縫うなどを行なっています。

工房のなかで価値を確かめ合うだけでなく、使っているひとが豊かさを感じるようなものづくりを考え、それを社会のなかに届けるまでが仕事だと高野さんは考えています。

「コットンプロジェクト」は綿花を育てることを通じて、LaManoにまつわる循環を生み出します。
・綿を地域の人と育てる
・地域の人にボランティアで自宅で栽培していただく
・その綿花を、施設の商品を買うための商品券と交換する

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敷地内の身近な植物(栗、マリーゴールドなど)からの草木染めもします。その工程工程のなかで利用者さんの関われる部分をふやし、商品にしています。
工房を開放した展示販売会を年2回行います。心待ちにする人も多く、4日間で500-600人が来場し、1000点を売上げます。

森下「手間をかけていることがきちんとお客さんに伝わり、それを求めてくるお客さんがいることが印象的です」

▽Good Job!センター香芝 松本綾
伝統工芸は、昔から地域にある素材そのものに触れることでもあります。また、それはものづくりの原点に触れることでもあり、その経験がものをつくることの価値や動機につながり、それは福祉施設にとってもとても大切なことだとたんぽぽの家は考えます。
3年前から取り組んできた「お蚕さんプロジェクト」は、染織家の寺川真弓さんの勧めがきっかけでした。「おかいこさんを育てることで感動することや教えられることがたくさんある」との寺川さんの力強い後押しを受けたものの、その感動がよく理解できてないままに開始。たんぽぽの家のプロジェクトのなかで生き物を扱ったことはありませんでした。しかしながら松本さんは、飼育や糸引きをとおして、お蚕さんという生き物がつなぐ縁を感じ、障害のある人もスタッフも歴史や文化をふくめて学びや楽しみがどんどんと広がっていくことを体験してきました。

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活動を記録した本「OKAIKOSAN お蚕さんと過ごす1年間」が販売中です。

テーマ3「伝統工芸と福祉をつなぐ」

▽やまがたアートサポートセンターら・ら・ら 武田和恵さん
たんぽぽの家のスタッフとして東日本復興支援事業に携わりました。たんぽぽの家のメンバーやスタッフと関わるようになり、アーティストとして誇りをもって活動するメンバーとふれあった経験から、復興支援事業においても「障害のあるメンバーの力を信じる」ということを信条にすることを学びました。
そのため、支援員とだけでなく、利用者さんとの会議なども大切にしています。のぞみ福祉所では、ユーモラボが関わるようになるよりも前から仕事をしていますが、表現のおもしろい人だけでなく、こつこつと作業できるひとも力を発揮できるのが紙好きの魅力だということです。

NEW DANTSUの開発段階のワークショップにおいても、コーディネータとしての手腕を発揮してくださいました。そこでは、一度済んだワークショップの仕切り直し(仕組みを変えて再挑戦)もあったのですが、それも、「利用者さんが仕事に誇りをもてるように」という観点からでした。

分野を横断していろんな人が関わる取り組みだからこそ、それぞれの価値観がみんな正しく、だからこそコーディネータが必要だと武田さんは考えます。違いの価値を見出して、交換できる信頼性をつくる。寄り添い、よく話を聞き、何を求めているかを引き出し、どうしていきたいかを一緒に考える。そこが、コーディネータと福祉との共通点だということです。現在、工業・福祉・デザインが連携し”はたらく”と”いきる”をそれぞれの視点で見直すとりくみ「こうふくで山形」のコーディネータをつとめ、さらに幅広い人たちが知恵を出し助け合うプラットフォームづくりを目指しています。

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▽ドンタク玩具社 軸原ヨウスケさん
福祉×伝統工芸がうまく交わり、地域にとって価値のあるものをつくるために必要なことのヒントとして、玩具にまつわる運動を紹介してくださいました。

山本鼎:
農民美術運動をおこす。社会的に弱く不安定な立場にある農閑期の農民が、手仕事に心を喜ばせながらも副業収入を得られるように考案・指導した

有坂与太郎:
郷土玩具復興のため、伝統を持たなくても地域の素材や伝承からつくりだす「創生玩具」を考案した

現在、廃絶した郷土玩具にまつわる新刊を準備中の軸原さん。作り手のいなくなった玩具の復興を福祉施設と協力しつつ行ったり、新しい玩具を創生できたらおもしろそうだと考案してくださいました。

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「ニュートラ談義」Vol.01 福祉の現場をいかす、価値のあるものづくり
2022年3月6日(日)14:00~16:30
主催:文化庁/一般財団法人たんぽぽの家
令和3年度 文化庁委託事業「障害者等による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」


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